川本町美郷町邑南町

夏の彩り
豊作願う踊り 宵には花火

浴衣姿で花がさをかぶった男衆が、馬に乗った武将をかたどったわら人形を担ぎ、太鼓をたたき、笛を吹いて、田んぼのあぜ道を練り歩く。島根県邑南町矢上の鹿子原(かねこばら)集落で、毎年7月20日に行われる「虫送り踊り」は害虫を追い払い、豊作を願う行事だ。

踊りは、集落の30代以上の男衆18人が参加する。集落の氏神をまつる三穂両(みほりょう)神社を出発し、町内12カ所を回り、最後は近くの諏訪神社で踊りを奉納する。

馬に乗ったわら人形の正体は、斎藤別当実盛(さねもり)。源氏との戦いで、馬が稲の株に足を取られて討ち死にした実盛が恨んで、稲を食い荒らす害虫になった、と伝えられる。

鹿子原だけでなく、昔は山側の田んぼから、虫が付いた竹の枝などを低い方の田んぼへリレーするように手渡し、最後に竹を燃やした。周辺の集落では途絶えたが、鹿子原では戦時中も踊りを守り、少なくとも200年以上続いている。1967年に県無形民俗文化財になり、全国で踊りを披露する機会も多い。保存会の日野原利郎会長(72)は「この踊りを通して集落内のつながりができる」と話す。

夏になると虫も動き回るが、人間も夜な夜な外に出て楽しむ季節。川本町では7月下旬、伝統を引き継ぐ「ええなぁまつりかわもと」が開かれる。古くは地域の神社の祭り「石川祭り」として行われていた。ことしは7月29日、花火と出店、神楽の上演、レールバイクなどが予定される。

邑智郡内では、美郷町粕渕地区で「美郷夏まつり花火大会」(花火は午後8時~)、邑南町出羽地区で「みずほ夏まつり・出羽川大花火大会」(花火は午後8時20分~)が、いずれも7月22日に開かれる。

稲穂の実りを感じる夏。里山に暮らす人々は、害虫の心配をしながらも、山あいにこだまする花火にさまざまな思いを託す。

写真1:虫に化けたといわれる実盛の人形を担ぎ、あぜ道を歩く住民たち
写真2:「ええなぁまつりかわもと」の花火

≪メモ≫各行事の問い合わせは次の通り。鹿子原の虫送り踊り☎0855(95)1044=矢上公民館▽ええなぁまつりかわもと☎0855(72)0636=川本町産業振興課▽美郷夏まつり☎0855(75)0805=美郷町商工会▽みずほ夏まつり☎0855(83)0912=出羽公民館。悪天候の場合、花火のみ翌日に開催。
もりた・いっぺい
1968年、島根県邑南町生まれ。地方紙記者を経て、JR三江線の廃止を機に帰郷。町役場で働きながら、NPO法人江の川鉄道の設立に加わり、廃線跡にトロッコを走らせる。年間誌を発行する「みんなでつくる中国山地百年会議」事務局長。江の川流域広域観光連携推進協議会のメンバーとして広報を担当する。邑南町在住。

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