美郷町

酒谷光石伝説
紅葉ライトアップ加わる

島根県美郷町粕渕から飯南町赤名に至る旧石見銀山街道の途中、酒谷集落にある「光石(ひかりいし)」には、奇妙な伝説が伝わる。昼夜問わずに皓々(こうこう)と光る石のおかげで夜も働くことになった小作農が、困って石を割ると光らなくなり、夜は休めるようになった―。近くの酒谷八幡宮は「光八幡宮」とも呼ばれる。光峠(ひかりだお)という地名も残る。

そんな酒谷集落で8年ほど前から、地元の青年組織「酒栄(さかえ)会」が、光の伝説にちなんで紅葉の時季にライトアップをするようになった。見どころは、八幡宮の前に立つ樹齢400年のイチョウと、八幡宮から200メートルほど離れた場所に生える数十本のモミジの紅葉だ。

モミジは、福間捷三さん(84)の敷地内に群生している。自宅近くのお稲荷さんのそばに立つ大木から種を飛ばして少しずつ増殖。芽吹いたモミジを育てるため、妻の怜子さん(82)が数十年かけて下草刈りをしてきた。今では田んぼや川のほとりに数十本が育ち、晩秋になると真っ赤に色づくモミジが酒谷の名物になった。

そこで、酒栄会が思い立ち、各地の紅葉名所を視察して研究しながら、ライトアップを行うようになった。モミジもイチョウも、目の前の田んぼには水が張られ、水面(みなも)に樹影がきれいに映る。田んぼの持ち主が稲刈りの後で、田んぼをもう一度ならして水をためている。

捷三さんは「京都のモミジの名所というところに行ってみたが、こっちのモミジの方が、色がいい」と笑う。紅葉が深まった頃には、夫婦2人でモミジの前にビーチパラソルを立てて、お茶を振る舞う。「いろいろなところから、ここを訪ねてくれるのがうれしい」と怜子さんも誇らしげだ。

光石の伝説に着想を得たライトアップ。住民らが一人一人、少しずつ協力しながらともす明かりは、わずか30戸ほどになった酒谷集落の小さな誇りになった。

写真1:紅葉したモミジが田んぼの水面に反射した「逆さモミジ」。自生したモミジを大切に育てた
写真2:伝説が残る「光石」の近くに立つ酒谷八幡宮のイチョウ

≪メモ≫美郷町酒谷のライトアップは、今月17日ごろまで。近くに駐車スペースがある。見頃などの問い合わせは、町観光協会☎0855(75)1330。

※この記事は令和5年11月11日の中国新聞に掲載されたものです
もりた・いっぺい
1968年、島根県邑南町生まれ。地方紙記者を経て、JR三江線の廃止を機に帰郷。町役場で働きながら、NPO法人江の川鉄道の設立に加わり、廃線跡にトロッコを走らせる。年間誌を発行する「みんなでつくる中国山地百年会議」事務局長。江の川流域広域観光連携推進協議会のメンバーとして広報を担当する。邑南町在住。

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