美郷町

田之原展望台
寒い朝 雲海に包まれて

島根県美郷町上野にある田之原展望台は、山並みを縫って流れる江の川や、遠くの三瓶山が望める絶景スポットだ。春や秋の気温が5度を下回るような冷え込む朝には、深い霧が発生する。その霧を山の上から見下ろすと雲海が見える。

21日午前7時過ぎ、美郷町上野の国道375号から山道を登る。展望台には先客4人が、カメラを構えていた。最近新聞で紹介され、この日が冷え込むという予報を見定めて集まった。実際、この日の雲海は圧倒的で、周囲の山並みが隠れるほど。風を受けて霧が山を越え、谷を縫って流れる。

展望台から北東の方角にある山の頂から霧が降りていく。まるで滝を落ちる水のようだ。「滝雲と言うんです」。浜田市から訪れたカメラマン、佐々木俊和さん(72)が教えてくれた。

佐々木さんは、写真集「大山絶景」「隠岐絶景」を手がけた実績の持ち主。前日夕方に訪れ、車中泊しながら夜空を撮った後、雲海を待ち受けた。「いつもいい結果を予想してカメラを構えても、予想を超える写真はなかなか撮れない」と、自然を撮る苦労や醍醐味(だいごみ)を話してくれた。

雲海は、一日の寒暖差が大きい春と秋に発生しやすい。空気は暖かいと水蒸気を含みやすく、冷えると空気中から出た水蒸気が霧(層雲)になる。特に、盆地や谷筋は冷たい空気がたまり、雲海が現れやすいといわれる。邑智郡は全域が盆地か谷筋と言え、随所で雲海が発生。邑南町の於保知(おおち)盆地、同町口羽地区の伴蔵山、川本町の丸山城跡などには展望台がある。

「この近くで雲海が見られる所は他にある?」と、雲南市から訪れた別のカメラマンに問われ、邑智郡内のスポットを紹介すると、「また行ってみます」と楽しそう。天候次第で、同じ雲海は一つとしてない。壮大で、神秘的な写真を狙ってみませんか。

写真1:快晴の朝、江の川の谷筋に沿って湧き上がる雲海(美郷町の田之原展望台)
写真2:田之原展望台で雲海をカメラで狙う写真愛好家

≪メモ≫邑智郡では、3~4月と10~11月ごろ、晴れて冷え込んだ朝に雲海が発生することが多い。於保知盆地を望む高台に立つ邑南町の宿泊施設「いこいの村しまね」では、SNS(交流サイト)で雲海発生情報を発信している。

※この記事は令和5年11月25日の中国新聞に掲載されたものです
もりた・いっぺい
1968年、島根県邑南町生まれ。地方紙記者を経て、JR三江線の廃止を機に帰郷。町役場で働きながら、NPO法人江の川鉄道の設立に加わり、廃線跡にトロッコを走らせる。年間誌を発行する「みんなでつくる中国山地百年会議」事務局長。江の川流域広域観光連携推進協議会のメンバーとして広報を担当する。邑南町在住。

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