
島根県川本町谷戸(たんど)地区で、県道沿いの山の斜面に可憐な小さな白い花「イズモコバイモ」が咲くと、もうすぐ中国山地に春が訪れるという合図。その知らせを感じた多くの人々が、毎年3月になると、この地を訪れる。
イズモコバイモは、島根県だけで自生するユリ科の植物で、種から数年かけて球根が成長し、3年目くらいから2㌢ほどの花を咲かせる。絶滅危惧種にも指定され、同県内でも群生は珍しい中で、谷戸地区では、山の斜面の1千平方㍍ほどのエリアに群生している。
山野草が好きな女性が2004年ごろ、谷戸地区を訪れ、たくさんの花を咲かせているイズモコバイモを〝発見〟。住民は白い小さな花が咲くことは知っていたが、貴重な植物とは知らず、三瓶自然館に問い合わせたところ、絶滅危惧種で群生地として貴重な価値があることが分かった。「これは大切にしないといけないと。地元を中心に守っていきたいと活動が始まりました」と話すのは、川本町自然大好きネットワークの瀬尻亨代表(81)。
イズモコバイモを守るため、春と秋に草刈り、年末には枯れ枝などを取り除く作業を行う。こうして大切に守られているにも関わらず、5年ほど前に一斉に花芽が傷む〝事件〟があった。犯人はヒヨドリで、その後はヒヨドリの嫌う音を出す機材を設置したことで翌年から被害は激減したが、今度は群生地として有名になると、心ない人による盗掘被害も出始めた。
地元の谷戸地区は人口も減り、高齢化が進むなかで、町内外の会員が草刈りなどの作業に参加しながら、貴重な自然を守る。瀬尻代表は「高齢化が進み、将来が心配なところもあるが、訪れてくれる人のためにも、体が動く限り貴重な自然を守っていきたい」と話している。

《メモ》イズモコバイモの自生地は、川本の中心部から県道川本大家線で3㌔ほど進んだところ。例年、2月下旬から咲き始め、3月いっぱい楽しめるが、暖冬だった今年は、例年に比べて開花が早く、3月中頃が見頃という。開花状況などの問い合わせは川本町観光協会(電話0855・74・2345)へ。
※この記事は令和6年3月9日の中国新聞に掲載されたものです
※この記事は令和6年3月9日の中国新聞に掲載されたものです

- もりた・いっぺい
- 1968年、島根県邑南町生まれ。地方紙記者を経て、JR三江線の廃止を機に帰郷。町役場で働きながら、NPO法人江の川鉄道の設立に加わり、廃線跡にトロッコを走らせる。年間誌を発行する「みんなでつくる中国山地百年会議」事務局長。江の川流域広域観光連携推進協議会のメンバーとして広報を担当する。邑南町在住。