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江の川に架かる橋
形さまざま 橋の見本市

町の真ん中を中国地方最大の河川・江の川が貫く島根県美郷町。長さが100メートルを優に超える大きな橋が10以上も架かり、桁橋、アーチ橋、吊り橋、斜張橋、トラス橋、ラーメン橋など多様な形が楽しめる「橋の見本市」のようなスポットだ。

明治以前は舟運の大動脈だった江の川。たたら製鉄の材料や製品、木炭、コメなどを河口の江津まで運び、北前船に載せ替えて全国に運ばれた。こうした長さ15㍍を超える船が上り下りする一方で、江の川沿いの住民は小さな渡し船で両岸を行き来した。ただ、雨が降って水位が上がれば渡ることができない。「橋があれば、、、」。住民にとって彼岸とつながる橋は夢だったが、1960年代になってようやく100㍍を超す長大な橋の建設が始まった。

浜原ダムのダム湖に架かる信喜(しき)橋は、1974年に完成した全長173㍍の吊り橋。両岸には合計約2400㌧の荷重に耐えられるコンクリート塊が埋め込まれワイヤーで橋を吊っている。大浦橋(全長148㍍)は1989年に完成したアーチ橋。上部のカーブした部材で、橋を支える構造。斜めに張り巡らせる「ニールセン」という手法を取り入れ、デザイン性にも優れ、1993年の第1回「しまね景観賞」を受賞した。高梨大橋(全長158㍍)は1984年にできた斜張橋で、中央にある主塔から左右にワイヤーを伸ばし、全体をつり上げる。

島根県技術士会が2013〜16年度、有志で「江の川橋梁群調査研究分科会」を組織して調査し、ガイドマップなどを作成した。メンバーの一人だった建設コンサルタント会社・ウエスコの余村浩さん(49)は「これだけいろいろな種類の橋が集まっているところは珍しい。少しマニアックかもしれませんが、構造ごとに橋を支えるための力の伝わり方が異なるところを見てもらえたら」と話している。

 

写真(いずれも佐々木創撮影)
1枚目:浜原ダムのダム湖に架かる全長173㍍の信喜橋=島根県美郷町
2枚目:主塔から伸びるワイヤーのデザインが美しい高梨橋=島根県美郷町
3枚目:丸みのある上弦材から斜めに伸びるワイヤーのデザインが特徴的な大浦橋=島根県美郷町

※このコラムは2024年5月25日の中国新聞に掲載されたものです
もりた・いっぺい
1968年、島根県邑南町生まれ。地方紙記者を経て、JR三江線の廃止を機に帰郷。町役場で働きながら、NPO法人江の川鉄道の設立に加わり、廃線跡にトロッコを走らせる。年間誌を発行する「みんなでつくる中国山地百年会議」事務局長。江の川流域広域観光連携推進協議会のメンバーとして広報を担当する。邑南町在住。

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