美郷町

石見鴨山窯
画家から転身 土の世界に

島根県美郷町の湯抱温泉近くの山中で、窯元「石見鴨山(おおざん)窯」を開く、森山良二さん(76)は、画家から陶芸家へ転身した異色の経歴を持つ。カップや皿など普段使いの器をつくる一方で、「自分の心のうちを表現する」という作品にも取り組み、独自の世界観をつくり上げている。

森山さんは、17歳から35歳まで絵画に打ち込んだ。東京で学んだ後も、地元でアルバイトをしながら描き続けた。あるとき、お世話をしていたお年寄りのグループが「陶芸をしてみたい」という話になり、講師を招いて陶芸教室を段取りした。自分もやってみようと土を手にした瞬間、「ビビッときた。探し求めていたものが見つかった」と森山さん。次の日から筆を置き、陶芸の世界に飛び込んだ。

1983年に自宅に窯を開き、斎藤茂吉が柿本人麻呂の終焉の地との説を唱えた近くの鴨山にちなんで命名。独学で器を作り、地元で販売したところ思いのほか売れた。器のほかにも作品づくりも続ける。角がついた女性の顔、耳が異常に大きい男性の顔など「鬼」を彷彿させる焼き物や、子供の頃から繰り返し夢に出るという渦巻きが表面にびっしりと並ぶ器など、一見おどろおどろしい焼き物も。絵画から転身した森山さんの一貫した「自分の心にあるものを表現する」行為だ。

ただ、近年は「お客さんに喜んでもらうことに本質がある」と感じることも多いという。随時受け付けている陶芸教室では、妻の玉枝さん(70)と共にお客さんとの会話しながら器をつくるのも楽しみの一つだ。

森山家はここ湯抱の地で代々、炭を焼いてきた。「土で築いた窯で炭を焼いてきた家に生まれ、土をこねる焼き物も全く同じことだったと気づいた」と笑う。森に囲まれた工房で、土と向き合う日々は続く。

写真はいずれも佐々木創撮影
写真1:湯抱の鴨山近くの山中にある石見鴨山窯で作品づくりに取り組む森山良二さん㊨と、妻の玉枝さん=島根県美郷町湯抱
写真2:森山良二さんの手がけたカップや「灯り取り」

メモ 石見母屋のギャラリーで、各種の器などを展示販売している。陶芸体験は2人〜6人(1人3500円。材料費含む。送料別)で受け付ける。日時は応相談。申し込みは、石見鴨山窯(電話0855・75・0758)

※この記事は令和6年7月27日の中国新聞に掲載されたものです
もりた・いっぺい
1968年、島根県邑南町生まれ。地方紙記者を経て、JR三江線の廃止を機に帰郷。町役場で働きながら、NPO法人江の川鉄道の設立に加わり、廃線跡にトロッコを走らせる。年間誌を発行する「みんなでつくる中国山地百年会議」事務局長。江の川流域広域観光連携推進協議会のメンバーとして広報を担当する。邑南町在住。

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