
真夏の太陽の下、島根県川本町の町民球場で、はつらつと白球を追いかける選手たち。6年前に発足した島根中央高校の女子硬式野球部員たちだ。同高は、生徒250人のうち90人が野球部に所属し、このうち46人が女子だ。
同高女子野球部の発足は2019年4月。生徒の減少の中で、特に女子の入学が少ないのが課題だった。役場や関係者が検討した結果、女子硬式野球に着目。寮を整え、野球が目一杯できる環境をつくり出し、初年度11人が入部した。その後も毎年、10人前後が入部し、最近は沖縄や関東からの生徒もいる。
今年7月の全国大会では、1回戦を突破。2回戦で敗れたものの、全国でも渡り合えることを実感した。この大会で3年生が引退後、主将に指名された2年の石倉愛莉(まなり)さん(16)は松江市出身。兄の影響で小学3年から野球を始め、男子に交じってプレーしたが、次第に男子との体格差を痛感し、女子だけで競える環境を求めて島根中央高校に進学。「日本一になる、と新チームみんなで目標を決めた。全員が主役になって日本一を狙いたい」と意気込む。
町では、同高の卒業生も活躍できる環境をつくろうと、山陰初の社会人女子硬式野球部を立ち上げる。7月末、新チーム名を公募した結果、「島根フィルティーズ」と決定し、地元の祭り会場で発表した。町に自生する「イズモコバイモ」の学名や、ギリシャ語で愛するとの意味が込められた。現在は、チームの選手を募集中だ。
町まちづくり推進課の伊藤和哉課長は「女子野球の存在が、町に化学反応を起こしてくれています」と喜ぶ。高校の存続を目指した町を挙げた取り組みが、心ゆくまで野球をやりたいという女子生徒の思いをかなえることで、町に新しい人の流れを生み出している。
撮影はいずれも佐々木創
写真説明1:公募の結果、決定した女子硬式野球部のチーム名を発表する関係者=島根県川本町川本

- もりた・いっぺい
- 1968年、島根県邑南町生まれ。地方紙記者を経て、JR三江線の廃止を機に帰郷。町役場で働きながら、NPO法人江の川鉄道の設立に加わり、廃線跡にトロッコを走らせる。年間誌を発行する「みんなでつくる中国山地百年会議」事務局長。江の川流域広域観光連携推進協議会のメンバーとして広報を担当する。邑南町在住。