
島根県邑南町矢上の於保地盆地のほぼ真ん中にある古い蔵をリノベーションした宿「隠れ家stay 蔵 ひなわら」が9月にオープンする。築75年の蔵の内部を、建築当時の柱やはりを残しつつ、わずか37㎡のスペースを活用して、蔵に納められていた家具などをリメイク。時間の経過と新しいデザインを楽しめるぜいたくな空間に仕上げた。
宿を改修したのは邑南町内に住む会社役員の大屋真理子さん。新婚時代に暮らした夫の実家がしばらく空き家になっていたが、邑南町内に素敵な宿泊施設をつくりたいと思っていたところ、観光庁の補助事業があることがわかり、2023年から改修を進めた。
蔵は1949年に建てられた。石州瓦にしっくい塗りの壁もしっかりしており、外観はほぼそのまま利用した。1階には、玄関、キッチン、ダイニングスペース、風呂、トイレを配置。玄関やキッチンには蔵にあったタンスや食器棚などを活用したほか、トイレの収納スペースやゴミ箱に、重箱やタンス、コメを入れる升などを置いた。「古くていいものを生かしながらモダンな雰囲気の宿にしたかった」と大屋さん。
2階には大きなベッドを2つ設置。階段の手すりに、リサイクルショップで見つけた欄間をあつらえたり、背中に負って荷物を運ぶ「背負子(しょいこ)」と呼ばれる道具を椅子の背もたれに活用したり、と家具や空間の随所にアイデアがあふれている。デザインは、島根県江津市に本拠を置き、島根県石見部を中心に古民家のリノベ-ションを手がける「SUKIMONO」(すきもの)が担当した。
大屋さんは「カップルやご夫婦で、ゆっくりと落ち着く空間で過ごしてもらいたいし、周辺の素敵な風景も楽しんでほしい」と話す。たたら製鉄の砂鉄を採取した後にできた於保地盆地の独特の景観の中に溶け込む蔵で、ぜいたくな時間を過ごしてみませんか?
撮影はいずれも佐々木創
写真1(メーン):蔵の内部をリノベーションして、時の経過を楽しめる贅沢な空間に仕上げた宿の1階ダイニングスペース=島根県邑南町矢上
写真2:田園風景の中に溶け込む宿の外観=島根県邑南町矢上

※この記事は令和6年8月24日の中国新聞に掲載されたものです

- もりた・いっぺい
- 1968年、島根県邑南町生まれ。地方紙記者を経て、JR三江線の廃止を機に帰郷。町役場で働きながら、NPO法人江の川鉄道の設立に加わり、廃線跡にトロッコを走らせる。年間誌を発行する「みんなでつくる中国山地百年会議」事務局長。江の川流域広域観光連携推進協議会のメンバーとして広報を担当する。邑南町在住。