邑南町

実りの秋
棚田守るオーナーと住民

島根県邑南町上田の標高280㍍の棚田に、黄金色に実ったコシヒカリを、家族連れや地元住民たちが一株ずつ、鎌を使って刈り取っていく。5株ずつワラを使って束ね、ハデに掛けていく。みんなが楽しみにしていた収穫作業。10月には収穫祭で新米を楽しむ予定だ。

1999年から棚田を守ろうと、上田地区の住民有志で始めた棚田オーナー制度で、ことしは広島市内を中心に22組が参加している。1組1㌃のオーナーとなり、田植え、草刈り、刈り取りの作業や収穫祭に参加できる。上田・平佐集落では古くから、たたら製鉄の原料となる砂鉄を採取する「鉄穴(かんな)流し」が行われてきた。採取跡に棚田を作り、山の中での豊かな暮らしを続けてきたが、人口減少で次第に棚田が荒れていくのをなんとか食い止めたいという住民たちの思いから始まった取り組みだ。

参加者の中には、広島市内の有志でつくる「コンビニ弁当脱出隊」のメンバーが多い。忙しい現代人の食生活を見つめ直そうという広島市内の会社員らでつくり、主な活動として棚田オーナーに参加。隊長の山内智弘さん(51)=広島市南区、会社員=は2回目から継続して参加し、「コメが作られる現場のことを意識したことがなかったが、自然の中で子供たちを遊ばせることができる環境が素晴らしい」と話す。田植え後の水の管理は住民が担当。「田植部長」の三上孝行さん(60)は2日に1回、田んぼを見回る。「自分の田は後回し。皆さんの稲が立派に育つように気をつけています」。

10月に開かれる収穫祭には45㌔ほどの新米を受け取り、新米を炊いたご飯や山で採れた秋の味覚を味わう。永井智行会長(58)は、「棚田で出会った人と人のつながりが生まれ、リピーターも多い」と話す。「もてなし」よりも、「一緒に作る」をモットー。20年を超えるオーナーと住民の交流が棚田を守る原動力だ。

 

写真1:棚田に実ったコシヒカリの収穫体験を楽しむ家族ずれや住民たち=島根県邑南町上田
写真2:鉄穴流し跡にできた上田・平佐地区の棚田と民家がある里山の風景=島根県邑南町上田

《メモ》毎年3月にオーナー30組を募集。料金は1区画あたり39,000円。問い合わせは上田平佐棚田保存会(090・7775・1982、永井)へ。

※この記事は令和6年9月28日の中国新聞に掲載されたものです
もりた・いっぺい
1968年、島根県邑南町生まれ。地方紙記者を経て、JR三江線の廃止を機に帰郷。町役場で働きながら、NPO法人江の川鉄道の設立に加わり、廃線跡にトロッコを走らせる。年間誌を発行する「みんなでつくる中国山地百年会議」事務局長。江の川流域広域観光連携推進協議会のメンバーとして広報を担当する。邑南町在住。

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