
秋になって水温が低下すると、中国山地の各地の川で、アユが産卵のために海を目指して下り始める。「落ちアユ」だ。この落ちアユを獲るための伝統漁法「簗(やな)漁」が、島根県で唯一、美郷町都賀地区(旧大和村)で行われている。伝統の漁を守ろうと、いったん中断した簗漁を5年前に復活させている。
簗漁は、竹をいかだのように組んだ「簗」を川の中に設置して、川を下るアユを追い込んで捕獲する漁法。一昔前は江の川や中国地方各地で行われていたが、漁法が大がかりなことや担い手の高齢化で次第に廃れ、島根県内で簗漁は姿を消していた。しかし、伝統漁法を守り、地域に多くの人を呼び込もうと「観光としての簗」を目指し、都賀地区の50〜90代の18人が2021年に「大和伝統漁業簗保存組合」を立ち上げて復活した。
少しずつ知名度も上がり、今年も9月から10月上旬の8日間開催し、島根・広島両県を中心に家族連れらが参加。イベントを運営するスタッフも公募し、高齢化が進む中でもイベントが継続できる仕組みにしている。
今年は全般的に小雨と高温でアユの生育が悪かったため、下るアユも少なかったものの、10月6日には、参加した家族連れが簗に陣取っていると落ちアユが飛び込んできて、歓声を上げながら捕まえていた。捕まえたアユは串に刺し、ボランティアスタッフが起こした炭火で焼くと香ばしい匂いが立ちこめた。島根・広島両県から集まった約15人の参加者は「捕まえるのが難しいけど楽しい」「取れたてのアユはおいしい」と喜んだ。
栗原進組合長(77)は「伝統を守りながら、観光で訪れる人を増やしたい」と意気込む。地元住民の熱い思いで復活した簗漁は、地域外の人たちの力を支えに、新たな伝統をつくっていく。
写真はいずれも佐々木創撮影
写真1(川の中の簗漁の様子):川の中に竹で組んだ簗に陣取り、落ちアユを捕まえる参加者=島根県美郷町都賀西
写真2(アユを頬張る子供):捕まえた直後に炭火で焼いたアユにかぶりつく参加者=島根県美郷町都賀西

※この記事は令和6年10月12日の中国新聞に掲載されたものです

- もりた・いっぺい
- 1968年、島根県邑南町生まれ。地方紙記者を経て、JR三江線の廃止を機に帰郷。町役場で働きながら、NPO法人江の川鉄道の設立に加わり、廃線跡にトロッコを走らせる。年間誌を発行する「みんなでつくる中国山地百年会議」事務局長。江の川流域広域観光連携推進協議会のメンバーとして広報を担当する。邑南町在住。