邑南町

矢高味噌
生徒が作り60年 伝統の味

ことし製造開始から60年を迎えるみそがある。といっても、老舗のお店ではなく、島根県邑南町の矢上高校で造られている「矢高味噌(みそ)」。地元産のお米と大豆で丁寧につくられる伝統の味は、学校に買いに訪れる人が絶えないほど、地域に愛され続けている。

同高は普通科と産業技術科(前農業科)がある、全校250人ほどの小規模校。産業技術科では実習でみそ造りやジャムの製造を行っており、長年伝統の技が受け継がれてきた「看板商品」だ。

10月下旬、5、6限の授業で産業技術科2年生5人が仕込み作業。2日前に水に浸したコメを蒸して麹菌を混ぜ、適度な温度をかけて麹をつくる。まんべんなく発酵が進むように混ぜ合わせる「切り返し」が大切だ。前日には大豆を蒸し、当日に麹と大豆をたらいで混ぜ合わせ、ミンチ機に通して潰し、たるに詰める。

実習に参加した産業技術科2年の森脇里恩(りおん)さん(17)は「作業は大変だけど、みんなに食べてもらえると思うと頑張れる。家族もこくがあると喜んでくれる」と話し、同2年の松村愛眞(えま)さん(16)は「60年も続くということは、ずっと地域で愛されてきたんだ、と思うと力が入ります」と笑顔を浮かべた。

仕込みは1回500㌔で、8ヶ月程度熟成させる。年間8〜9回造るので年間生産量は4㌧を超える。町内の産直市やスーパーの定番で、同高でも販売している。

自身も高校時代にみそを造った伊東望実習主任(44)は、今は伝統の味を生徒に伝える役割。「生徒が造ったみそを住民が食べてくださる。この喜びや衛生面での緊張感など、学びが大きい機会」と話す。

昨年度、生徒たちが力を合わせて、ラベルのデザインを一新した。「おかげさまで60年」。感謝の気持ちをラベルに込めて、矢高味噌はこれからも日々の食卓に届く。

 

 

写真1:伝統の味・「矢高味噌」を造ろうと、大豆と米麹を混ぜて、ミンチ機にかける生徒たち=島根県邑南町矢上、矢上高校
写真2:生徒たちが造った矢高味噌とイチゴとイチジクのジャムを持つ生徒たち=島根県邑南町矢上、矢上高校

もりた・いっぺい
1968年、島根県邑南町生まれ。地方紙記者を経て、JR三江線の廃止を機に帰郷。町役場で働きながら、NPO法人江の川鉄道の設立に加わり、廃線跡にトロッコを走らせる。年間誌を発行する「みんなでつくる中国山地百年会議」事務局長。江の川流域広域観光連携推進協議会のメンバーとして広報を担当する。邑南町在住。

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