邑南町

INAKAイルミ
「天空の駅」照らす希望

高さ20㍍にホームがあり、「天空の駅」の異名で親しまれている旧JR三江線宇都井駅の周辺で、ライトアップイベント「INAKAイルミ」が毎年11月下旬に開催される。ことしは、2010年の開始以来、廃線を乗り越えて続いてきたイベントは、住民とボランティアが10万球のライトをともし続けている。

INAKAイルミは邑南町が町内にあるLEDメーカーと連携し、町内でイルミネーションイベントを企画。最もふさわしい場所として宇都井駅周辺に決定した。次の年は町内の別の場所で展開する予定だったが、宇都井以外に名乗り出る地域がなく、宇都井の住民たちが引き受けて開催。2018年の三江線最後のイルミは2日間で1万人以上が訪れた。

ところが、2019年から三江線の廃線を受けて補助金が打ち切られる。中止の危機に住民が話し合い、入場料無料だけに「収入がないのに続けられない」という不安もあったが、廃線前にグッズを販売した収益を元手に「何もない宇都井で、続けていけば何かが起きるかもしれない」と継続を決めた。

演出を担当するLEM(れむ)空間工房(大阪市)も、宇都井の住民の心意気に感動し、手弁当で駆けつける。高齢化で作業も厳しくなるが、原動力となっているのがボランティアの存在だ。広島市や松江市、遠くは関東から例年延べ100人以上が集まる。ことしはLEDとグラスファーバーでつくる「稲穂イルミ」の電球を取り替えた。実行委員会の三次宏昭委員長(68)は「ボランティアに支えられて続いてきた。明るくなった稲穂をみんなでともしたい」と話している。

かつて500人以上が暮らした宇都井の人口は100人を下回り、三江線も廃線になった。それでも明かりを灯し続けた宇都井に、近年は移住者も出始めた。地域の希望を託す里山の明かりは、今年は一層輝きを増すだろう。

 

写真はいずれも佐々木創撮影
写真1:里山の風景を楽しむINAKAイルミで浮かび上がる宇都井駅=島根県邑南町宇都井
写真2:INAKAイルミでは地元邑南町のグルメが味わえる屋台も多数出店する=島根県邑南町宇都井

※この記事は令和6年11月9日の中国新聞に掲載されたものです
もりた・いっぺい
1968年、島根県邑南町生まれ。地方紙記者を経て、JR三江線の廃止を機に帰郷。町役場で働きながら、NPO法人江の川鉄道の設立に加わり、廃線跡にトロッコを走らせる。年間誌を発行する「みんなでつくる中国山地百年会議」事務局長。江の川流域広域観光連携推進協議会のメンバーとして広報を担当する。邑南町在住。

一覧に戻る