邑南町

ヒノキのベッド
香りの魅力 海外にも販路

周囲の山が雪に包まれる、邑南町鱒渕にある製材所・日高林産本社工場内には、ヒノキの匂いが充満していた。丸太を製材用のノコギリで、薄い板にスライスしたり、モルダーと呼ばれる機械で表面をきれいに磨いたりする作業がタンタンと続けられている。ヒノキのベッドの部材が次々とできあがっていく。

広島県北広島町のベッドメーカーと協力して、ヒノキのベッドづくりに取り組み始めたのが、1995年ごろ。日高林産ではそれまで、建築用の柱やはりなどを主力とする製材所だったが、ハウスメーカーの工業化住宅に押され、需要が減退。ヒノキ特有の清涼感のある香りは、不安を抑えたり、リラックスする効果があるとされる。「源(みなもと)ベッド」のヒノキベッドシリーズとして好調だ。

標準的なシングルベッドで4万円程度と手頃な値段を実現しているのは、ヒノキの原料として間伐材を利用しているからだ。ただ、コスト面だけではなく、山の間伐が進むことで山の環境を守るという思いからだった。

直径が12〜14㌢の小径のヒノキは節が多く、乾燥すると反りやすい性質を持つが、細くカットした木を圧着する技術を導入。細い木を貼り合わせることで反りを防ぎ、強度を高めるなど工夫を凝らす。また、近年は山で伐った木を発電用のチップに奪われ、小径木の確保に苦心することも多いが、日高林産の日高弘毅社長(64)は「お客様にも、山の環境を守っているという気持ちが伝わり、評価してもらえることがうれしい」と話す。

首都圏などで行われる商品展示会にも積極的に出店し、販路の拡大に積極的に取り組む。最近は、台湾やシンガポールなど東南アジアを中心に輸出も増えている。ヒノキの香りと共に中国山地の間伐材が、海を渡り、安らかな眠りを届ける。

《メモ》「源ベッド」は、北広島町のベッドメーカー・チヨダコーポレーションが開発した商品で、約50種類のベッドはすべての部材が天然のヒノキの無垢材を使用している。
もりた・いっぺい
1968年、島根県邑南町生まれ。地方紙記者を経て、JR三江線の廃止を機に帰郷。町役場で働きながら、NPO法人江の川鉄道の設立に加わり、廃線跡にトロッコを走らせる。年間誌を発行する「みんなでつくる中国山地百年会議」事務局長。江の川流域広域観光連携推進協議会のメンバーとして広報を担当する。邑南町在住。

一覧に戻る