
雲海スポットとして知られる、島根県美郷町上野の田野原展望台は、雲海がないときには江(ごう)の川の雄大さを感じられる場所でもある。194㌔の長さを誇る江の川は、中国地方で唯一中国山地を貫いて広島県から日本海に注ぐ川で、「中国太郎」との異名も持つ。一説には洪水の時に「ごうごう」と流れる音から名付けられたとも言われ、太古から住民は洪水と向き合うと同時に、豊かな恵みをもたらす存在だった。
北広島町を源流とする江の川は、庄原市から流れ出る西城川、世羅町から北上する馬洗川と三次市で合流し、島根県江津市で日本海に注ぐ。江の川流域は1600万年前ごろは海だった。その後、海底が隆起して中国山地が形成されるが、江の川は中国山地ができあがる前から流れており、山よりも川が先にできたという意味で「先行型河川」と言われている。洪水を引き起こしながら隆起する中国山地を削ってきたので、河岸は断崖のような地形となるため、沿線には常清滝(三次市作木町)、赤馬滝(島根県邑南町)など名瀑(めいばく)が多い。
昔から水運の大動脈として地域の暮らしを支えてきた。たたらで作られた鉄は川を下って江津市から北前船で全国に運ばれた。三次以北は江の川を遡り、安芸高田市吉田町から可部へ陸路で運んだ。コメ、木炭、塩や海産物もこの川で運ばれた。中国地方の南北を結ぶ交通の大動脈として人が行き交い、流域には多様な文化が芽生えた。
流域の文化を調査・研究しているNPOひろしまねの小田博之さん(72)は「人とモノが行き交い、各地の文化が流入した多様性のある地域」と話す。最近はインターネットの音声配信番組などを通じて、魅力を発信している。江の川を源流から河口まで辿りながら、多様な文化に触れてみてはいかがでしょうか。
写真はいずれも佐々木創撮影
写真1:中国山地の山並みの間を蛇行しながら流れ続ける江の川=島根県美郷町上野、田野原展望台
写真2:広島県北部から流れ出る水を集めて流れる江の川=島根県美郷町上野

※この記事は令和7年2月8日の中国新聞に掲載されたものです

- もりた・いっぺい
- 1968年、島根県邑南町生まれ。地方紙記者を経て、JR三江線の廃止を機に帰郷。町役場で働きながら、NPO法人江の川鉄道の設立に加わり、廃線跡にトロッコを走らせる。年間誌を発行する「みんなでつくる中国山地百年会議」事務局長。江の川流域広域観光連携推進協議会のメンバーとして広報を担当する。邑南町在住。