
浜田道瑞穂インターから車で約10分、於保地盆地を見下ろす高台にあるランチバイキングの店「縄文村」は、天ぷらや煮物、和え物など季節の野菜を使った料理が大皿に並ぶ。思い思いに皿に盛り付けて、絶景を見ながら味わう料理は格別だ。
店主の駅場友樹さん(59)の父で、9年前に亡くなった春樹さんが開いた。浜田市の印刷会社で働いた春樹さんは、企画を考え、執筆者を見つけるのが得意で、多くの出版物を手がけた。退職後の1994年に料理店を開いた。
歴史好きの春樹さんが邑南町の遺跡発掘にも関わる中で、縄文時代は人々が食べ物を分け合っていたという話から着想を得て「縄文村」と名付けた。ただ、料理は素人。地元で葬式の時に集落の女性が集まり、料理を出した「おとき(精進料理)」にヒントを得て、近所のおばあさんたちに協力を求めた。
「おとき」は、家庭の味ではなく、女性たちが故人に思いをはせながら、台所で味を互いに調整する。店でも、お手伝いに来てくれる4〜5人のおばあさんがおしゃべりしながら、段取りを決めたり、味見をし合ったりして料理ができていく。店の料理作りに一緒に参加した友樹さんは、その様子を面白く感じた「料理は師匠から盗むという感覚があるが、おばあさんたちは会話をしながら味を合わせ、皆の思いが乗っているからうまいのだと思った」という。
おばあさんたちは引退し、コロナ期間の休業を経て、昨年5月に再オープン。今は友樹さんと妻、パートと協力して毎日10数品の料理を提供する。友樹さんは「ちょっと前まで『懐かしい味』と言ってもらったが、最近はベジタリアン(菜食主義者)も増える時代になって逆に『新しい味』を感じてもらっている」と話す。
使うのは町内の農家が育てた野菜。その味はおばあさんたちの思いが重なった、懐かしさの中にも新しい味を求めて縄文村の挑戦は続く。
写真はいずれも佐々木創撮影
写真1:於保地盆地の絶景を見ながらランチバイキングを楽しむ来店者=島根県邑南町矢上(2024年6月撮影)
写真2:野菜づくしの料理を提供する駅場友樹さん=島根県邑南町矢上、縄文村

※この記事は令和7年2月22日の中国新聞に掲載されたものです

- もりた・いっぺい
- 1968年、島根県邑南町生まれ。地方紙記者を経て、JR三江線の廃止を機に帰郷。町役場で働きながら、NPO法人江の川鉄道の設立に加わり、廃線跡にトロッコを走らせる。年間誌を発行する「みんなでつくる中国山地百年会議」事務局長。江の川流域広域観光連携推進協議会のメンバーとして広報を担当する。邑南町在住。